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数学教育学会のために。No3 3世代文庫とは。

 3世代文庫のアイディアは、1988年、ICBA10周年記念フォーラムがきっかけになった。フォーラムのテーマは「どうすれば子ども達を本の世界に取り戻せるか?」だった。フォーラムには、日本の教育界、児童文学界からはもちろん、イギリス、カナダ、オーストラリア、メキシコから、児童書専門の司書など、子どもの読書指導の専門家を集め、フロアにも、多くの外国人を含む百数十名が参加して、熱心な討論が続いた。

 そして出た結論は、TVに何かを申し入れようとか、もっと良い本が出版されればなどという、ありがちな上滑りな意見ではなく、至極当たり前な「大人がもっと本を読まなければ、子どもも本を読まない」であった。外国人妻の会から参加した女性の「夫は仕事ばかりで家に帰って来ない。いったいどうやって、子どもを育てれば良いのだ」という涙の訴えに、一同は心を打たれた。

 日本人、特に男性は社会人になると本を読まなくなる。特に家庭では本を読まない。女性も然り。子どもが出来ると、雑誌や実用書ばかりで、本を読まない。生活ばかりに追われて、読書によって自分の世界を広げる楽しさを忘れてしまう。大人が、子どもの前で本を読まないから、子どもは本を読む楽しさを知らずに育ってしまう。子どもを本の世界に取り戻したければ、大人がもっと本を読まなければ、というのが結論だった。
 フォーラムはそこで終わってしまったから、我々は「大人がもっと本を読もう!」というアピールを出して終わったわけだが、私の心の中には、それでは具体的に、どうすればよいのか、という疑問が残ってしまった。

 大人が家庭で本を読む、といっても、仕事から疲れて帰ってくる親たちが、子どもの前で本を読むだろうか?それでは休日に読むとして、子どもの前で、落着いて本が読めるだろうか?大人が夢中になって読まなければ、子どもが釣られて読むわけはない。
 かつて我家では、休日は家族揃って貸本屋に行って、両手にマンガを抱えて帰って、次の休日まで必死で何十冊ものマンガを読む、という作業を、数週間続けたことがある。子ども達にマンガを飽食させようという下心もあったのだが、親のほうも「近頃の漫画」に興味があったので、親子共に、結構楽しめる数週間であった。

 その頃のマンガには『のたり松太郎』など、親子で楽しめるマンガが沢山あったからでもあるが、親子が同じ本をやったりとったりして読むのは楽しい。特に感想を求めるわけでもなく、誰がどのマンガを借りてきたか確かめもせず、ひたすらに借りられるだけ借りてきて、むさぼり読んだ。

 それと同じ感覚の文庫はできないか? しかし、マンガというのは両刃の剣で、「本」というものに子どもを近づけるのに良い手段ではあるが、そのまままともな本に移らずに、マンガしか読まなくなってしまう可能性もある。そこで私は、せせらぎ文庫に本を選ぶに当たって、ターゲットを30から40台の父親に絞った。子どもの手を引いて来た父親が、おやっとつい手にとってしまうような本を並べた。その下の段には、30代の女性に面白そうな小説。隣の棚には、リタイヤーした祖父母が、ゆとりの人生でもう一度読んでみたくなる、学生めいた本も並べてみた。近頃、子どもの本は良いものがたくさんある。読ませたくない雑な編集の絵本さえ避ければ、子どもの本棚は、時間に従って充実してくる。

 軽井沢という町の特殊性から、目論見が当たったと思えるのは、まだ夏休みだけなのだが、夏になると、私が夢みたとおりの3世代の家族が、5,6人ずつの家族が、ぞろぞろと狭い文庫に入ってきて、各々好きな本を選び、大人は自分の分は借りる手続きをしておいて、孫や子どもにねだられるままに絵本を読み聞かせている。

 適度に狭い部屋に、祖父母と両親と、叔父、叔母や従弟達と膝小僧を並べて本を読む子ども達を見ると、とても豊かな気持になる。日本の未来も、捨てたものではない。これが世界初の3世代文庫、せせらぎ文庫である。

 蛇足ながら、毎年、海の日の連休には千が滝西区の公民館で「せせらぎ文庫フェスタ」が開催され、絵本作家の読み聞かせやお話のほか、面白理科実験、社会科体操、折紙、英語の絵本の読み聞かせまで、盛りだくさんな企画を、3世代で楽しめる。



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