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子どもには薦めたくない絵本

 本の選び方について話をする機会が多いが、ついうっかり「良い本と悪い本が・・・」等と言ってしまうことがある。すると必ず、「悪い本ってどんな本ですか?」と聞かれる。子どもの本の話なんて、そんなに本気では聞いてないだろうと思うと、そうでもないらしい。確かに「悪い本」さえ覚えておけば、その本だけ除けばいい。でも、悪い本は定義が難しい。

 基本的に、良い本は「あなたが読んでみて、良いと思った本」。これは、親が子どもに本を選ぶ時、一番大切なことだ。親がまじめに読んで、これが良い、と本気で思った本なら、たとえ世界中の評論家が悪い本だと言っても、それはあなたの子どもにとっては、「良い本」であり、あなたが良いと思った本を読ませることが、あなたの文化をあなたの子どもに伝える、ということなのだから。

 どんな本でも、たった一行でも心に残る一文があるなら、それは良い本である、ということばがある。そして、たった一人かもしれないその人の心に残った、そのたった一行のために作家は書くのであり、書く価値があるのだ、と。これは、書いている人の立場からのことばである。

 書き始めてしまったのだが、今日のテーマは、どうも、とても書きにくい。でも、この際、書かなきゃね。
 私が悪い本だと分類するのは、正しくない日本語が使われている本である。分厚い本の中で、ひとことでも、間違った言い回しが使われていたら、少なくとも他人に、薦めることはしない。そういう本が一冊、ここにある。しかも、絵は素晴らしい。作者が子どもたちに伝えようとしているテーマも素晴らしい。エリック・カールの、大型絵本である。出版社も定評のある偕成社。この絵本を開いて読んだ時、どうしよう!と、青ざめてしまった。『えをかく かく かく』という題である。題も面白い。

 エリック・カールだって、自分で、まあまあ、と思う程度の仕上がりのこともあると思う。でも、この本の絵は、ページごと、どの絵も素晴らしい。色もいいし、第一絵に勢いがある。子どもたちに「絵はこうやって描くんだよ、ね、楽しいだろう」と語りかけている。
偕成社は訳者選びにも手を抜いていない。翻訳で、いろいろ賞を受けたりもしている、有名な人だ。でも、だからといって、子どもの本に、こんなことばの使い方はしてほしくない。洒落ているつもりだろうが。

 まず、「ものすごく あかい わにを」。これはまだ、我慢できる。次は「ずいぶんと きいろい うしを」。確かに宮沢賢治が、こんなことばの使い方をしている作品がある。しかし現在では「ずいぶんと きいろい」とは言わない。次は「まったく ピンクの うさぎを かくんだ」。「まったく ピンク」などという色はありえない。「みごとな みどりの ライオン!」は、まだいいかな。「すばらしく オレンジいろの ぞうを」。「すっかり むらさきいろの きつねを かいちゃう」。「こんどは とんでもなく くろい しろくまだ」。「かんぺきに みずたまもようの ろばまでも!」 
声を出して読んでいると、吐き気がしてくる。編集の人が苦労したのではないかと思うのだが、形容詞の部分は、前のページになっている。だから、ページを繰っている間に、子どもがこの形容詞を忘れてくれるかもしれない。でも、やはり我慢できない。我慢してはいけないと思う。

 しかし、絵がとても良いので、焚書にする気にはならない。中学生以上の、日本語がしっかり身についている子どもなら、読んでみて!という気になるかもしれない。海外の日本語文庫には絶対に送れないし、日本の文庫で注意書をつけておくわけにもいかない。多分、せせらぎ文庫フェスタの抽選会に出して、あたった子どものお母さんに、良く説明するか・・・いっそ形容詞の部分に白い紙を貼ってしまおうか・・・。本屋で飛ぶように売れてしまう本だと思うから、悩みが深い。

 



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