上橋菜穂子といえば『精霊の守り人』シリーズをはじめ、日本の少年少女にとっての『指輪物語』のような大河ドラマの作者で、いつの間にか現れ、次々と、大人も夢中になれる作品を書いてくれた偉大な作家だ。なので、敬遠でもないが、きっと話しかけても適当にスルーされるタイプだと思いこんでしまっていた。だから、昨年だったか?コロナの所為で月日の感覚がなくなってしまったが、国際アンデルセン賞受賞の後、JBBYの何とか賞も受けられて、その集まりに参加したので、当然お見かけしたが、それまでお話したこともなかったので、お祝いのご挨拶もせず失礼してしまった。
この本を読んで、あ、しまったことをした、と後悔した。お見かけしたところ、とても親しみやすいタイプの女性で、親しいご近所というタイプだったので、自分の思い描いていた上橋菜穂子とは、全然違っていて、かえって、なんとなく、近寄れなかったのだ。 絵本も含めて、児童文学の作者は人が良い。誰かに親切にしたくてたまらない人達の集まりである。だからJBBYの会合に出たら、なるべく有名な作者に声を掛けたほうが良い。あまり書けない作者より、良い作品を書いている作者の方が、間違いなく優しい。
閑話休題。その、上橋菜穂子のエッセーというのは読んだことがなかったので、『明日はいずこの空の下』という題名にも惹かれて、ページを開いた。外国旅行の話が中心だが、その土地土地の著名な物語を中心に語られるので、知らない旅行話ではなくて、よく知っている街を一緒に旅をしている気分になる。読み進むと、殆どが、影響を強く受けて育ったお母様との旅行であったことがわかる。本の終りに近づくと、お母様が今もお元気だろうかと気になって、発行年月日を確かめてみた。確かめるまでもなく、最後まで読むと、癌と闘いながら、明るく二人旅を楽しまれたお母様が寿命を全うされたことも書いてあった。とても親しい友人の、旅の話を聞いているようなエッセーだった。またいつか、JBBYの会で、お目にかかることがあるだろうか。本をたくさん読んでいる人なら、きっと誰でも、著者と話をしたくなる、エッセー集である。