五島茂・美代子歌集

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せせらぎ文庫に子どもの本が一応揃ってから、最初に寄贈されたのが、せせらぎに別荘のあった、
五島茂・美代子ご夫妻の御遺族からの20冊ほどの歌集だった。現在では入手できない貴重な
本も含まれているとの事なので、貸出は勿論、「なるべく手を触れないで下さい」という感じで
丁度、一段分の棚に並べられている。茂氏の歌集と美代子氏の歌集、解説書などである。

その中から是非一冊御紹介したくて、何気なく美代子氏の『母の歌集』(立春短歌会刊)を手にとった。
まず見返しの英詩 The Sea is Blue が目に入る。手書きをそのままグレイで印刷した詩の最後に
Hitomi のサインがあった。歌集の見返しに英詩という意外さが気になりながら読みすすんで、
あとがきで長女のひとみさんが、東大文学部の2年生で夭折されたと知り、胸が詰まった。

同氏の、『婦人のための短歌のつくり方』(船場書店刊)、という一冊に、「自分の一番感動したことを、自然に心に浮かんでくる順序に従ってことばにしてみるのです」とあったが、ひとみさんの英詩を読むと、特に指導はされなかったと思うのに、母の教えを読んだように、自然で優しい、情景的な詩に
なっている。

『母の歌集』を紹介するなら、当然一首抜き出して引用したいのだが、どの歌もひとみさんの死を
作者の過失ゆえと捉えているのがひしひしと感じられ、胸が痛んで書き写せなかった。子どもは
生きているだけで、充分に親孝行である。
また後日、別の歌集で五島美代子氏の作品を御紹介したい。