『ふくしまからきた子』松本猛・松本春野作 松本春野絵 岩崎書店刊

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 4月7日はなんと同級生の結婚式だったので、丁度披露宴の最中で、残念ながら、FM軽井沢の「魔法使いの本棚」に電話参加も出来ないので、その代わり、特別の一冊を、宮尾さんに送りました。

 この本は、せせらぎ文庫フェスタでお馴染みの松本猛さんが、お嬢さんの松本春野さんと一緒に作った絵本。 4月1日に発売したばかり!

 松本猛さんは岩崎ちひろのひとり息子だから、春野さんはちひろの孫。この絵本が、「いわさきちひろ」と同じ水彩画の、柔らかい筆遣いでありながら、ちひろとは一味違ったピリッとした鋭さが感じられるのは、テーマが東日本大震災の、しかも原子力発電所の事故があった福島から来た女の子を、主人公としているからかもしれません。

 福島から来たサッカー好きの女の子「まや」は、隣に住むサッカー少年「だいじゅ」と、話をするようになります。自分はサッカーで日本代表になる、というだいじゅにまやは、福島に居る友達は、まだ放射線量が高くて外で遊べないから、私はサッカーやめるってきめた、というのです。サッカーが上手なまやとボールを蹴りたいだいじゅは、放射線が何なのか、どうすれば放射線がなくせるのか知ろうとして、大人たちに尋ねます。

 私は個人的な意見として、原子力発電は、いつの日か、安全管理を完全にした上で再開しなければいけないと思っていますが、それはそれとして、この絵本の問題提起を重要なことだと思います。  
プロメテウスが神様から火を貰ったとき、森林火災を懸念したかもしれないのに、ちゃんと人々に「火」を伝えてくれたからこそ、人類が絶滅せずに生きてこられたように、原子力という新しいエネルギーを、爆弾と言う愚かな物に使ってしまったからといって封印するのではなく、安全に正しく使う方法を見つけないと、人口の増えてしまった人類は、人間として尊厳を保って生きる事はできないのではないでしょうか。そんなことを、話し合いたくなる絵本です。

 この絵本の作者である松本猛さんは、ご存知のように、震災以前から、原子力発電についても、日本のエネルギー政策についても勉強していたのですから、大人の目で見て文字に書いてしまいたい思いが強かったに違いないのに、子どもに判断を強いるのではなく、自分の気持を行間に残して、心に疑問符を浮かべさせようとしています。そこに作者の優しさと真剣さが、伝わってくるのです。
巻末に、「放射能」などのことばの定義を記してあるのも、問題を提起し、議論を促すためには、とても大切なことだと思います。