『おれはワニだぜ』渡辺有一 文・絵 文研出版

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 1984年7月号からずーっと『海外子女教育』という月刊誌の「子どもの本棚」という頁に、毎月4冊ずつの良い本を、主に海外にいる日本の子どもに薦めている。この3年余り、この発行元である財団のT氏によって、隔月の参加に減らされてしまったが、それでも毎年24冊、それまでは毎年48冊の本を紹介し続けているのだから、これまでに扱った本は・・・・大変な数になる。(算数は苦手なの!)

 2002年にそれまでの分をまとめて、『国際児童文庫協会の小林悠紀子が、子ども達に薦める630冊の本』という長い名前の本をマナハウスという名古屋の出版社からプリンテックという印刷会社で、全ページのコピーという、当時にしては新しい形で出版したのだが、紙表紙なのに1800円と、高価であるにも拘らず、私自身が購入しても25%しか引いてくれず、お世話になっている方々に数百冊配ったら、自費出版のようになってしまった。その会社でやっている、名古屋の中心街の本屋にも置いてもらって何冊ずつか売れているという話だったが・・・・。やがてその会社も出版社も流れ解散?してしまって、版くらい貰っておけばよかったと、わりに評判がよく、自分自身、役に立つ本でもあるので、とても後悔している。

 それから更に15年になりかけているから「続きは出さないのですか」、と言ってくれる人もいるけれど、前回、中心になって編集を手掛け、何も頼んでないのに、立派な「索引」をつけてくれた後藤彩子さんが、出版後数年して急死してしまったので、その後の私は両手を失っている。彩子さんは、良き書手であり、海外で子育てをした経験者であり、もちろん国際児童文庫を1つ主催していて、何より、飛び切りの美人だった。亡くなった後で、いろいろな団体に属して、沢山の人の役に立っていたのを知って、快く引き受けてくれていた我々の仕事も、急死の一因ではなかったかと、遺されたお嬢様達に申しわけなく思っている。

 「子どもの本棚」は、それ以前は小難しい題が付いた、多少読みにくい頁だったが、まだ生意気だった私が、編集のKさんに、「例えば題も『子どもの本棚』かなんかにして、もっと楽しい・・・・」とゴチャゴチャ文句を言ったら「その題に変えるついでに、中身も小林さん書いてよ」ということで、何年かは私が一人で担当していた。その後、国際児童文庫協会のスタッフたちが、英語の能力には優れていても、子どもの本はあまり読んでないことに気付き、編集のKさんに無理に頼んで「ページの4つの文章は小林が統一する」という約束で、10人前後が交代で担当することになった。
現在は「国際子ども文庫の会」と小さなグループになったが、主に6人のメンバーが隔月に書いて、毎年の「せせらぎ文庫フェスタ」の費用を補っている。

 というわけで『おれはワニだぜ』を、6月号の「子どもの本棚」に取り上げようと思う。主人公は一癖ありげなワニ。表紙には、頬づえをついて寝そべり、右手?で大きな魚をにんまりと笑いながら、いたぶるワニの姿がある。ところが、水に隠れる仲間をあざ笑っていたこのクロコダイルに大きな網がかかり、黒眼鏡の人間に捕まってしまう。小さな池の横に鎖でつながれ、芸を覚えさせられ、「情けねえ、ワニの恥さらしだ」といいつつ人目にさらされる。街のショウウィンドウにワニ革のバッグや靴を見つけ、反逆心が芽生える。繋がれていた鎖ごと消火栓を引き抜き、町中を水浸しにして、飾られていた靴やカバンを助け出し、一緒に海に流れてゆき、「この晴れ晴れとした気分はどうだ、ワニっほう!」と叫ぶ。

 「生きるものの尊厳」を考えさせられる絵本である。動物の飼い方、ではなくて、人間としての生き方を、子どもは子どもなりに感じ取ってくれるだろう。近頃では、洋式トイレを汚すからと、座ったまま使わせられる男性がいると聞く。情けない!「ワニっほう!」と叫んで立ち上がってほしいものだ。