『ラストナイト』薬丸岳著 実業之日本社

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 フェスタで忙しければ忙しいほど、忙しさから逃げ出して本を読みたくなるのは・・・「弱き者、汝の名は本の虫」
薬丸岳氏の吉川英治新人賞受賞以後初!という一冊がでた。
 パラパラと、ためらいながらめくったら、前書きもなく、いきなり「プロローグ」2ページ!そして真っ黒なページに白抜きで「菊池正弘」とある。こんな作家がいたような・・・。そうか、これは、いろいろな作家のオムニバス形式か?などと勝手に思い込んで、ちょっと一章目だけ、と読み始めてしまった。第5章までとエピローグがあるが、もちろん、1章目だけ。

 ところが、軽井沢駅で北陸新幹線、自由席に並んでいたものだから、待たされる。長野新幹線の時は10分か20分待つだけだったのに、金沢までつながってから、軽井沢にはひどいときは一時間に1本しかとまらない。だもんだから、ついつい、読み進んでしまった。さりげなく、読者の興味を引きながら書き進んでいるものだから、読むほうも、どんどん読めてしまう。

 5人の作者の短編集ではなかった。芥川龍之介の『藪の中』と同じように、5人の登場人物の、各々の立場から見て、事件を作り上げてゆく。『藪の中』のように混沌としているのではなく、5人の登場人物の重なりとつながりとが、次第に事件の真相を浮かび上がらせ、作者がテーマとしている親子とか、人間同士の強いつながりと、犯罪に引きずり込む運命の糸が縄のように綯い合わされてゆく。

 あっという間に東京駅に着き、新宿で乗り換えて自宅まで。あーあ、フェスタの招待状の下書きを仕上げるつもりだったのに!
でも、一冊の本をと見終わるという達成感は、読み応えがある本であればあるほど大きい。充実したひと時だった。