『ゆめくい小人』ミヒャエル・エンデ作 偕成社

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 ぎりぎり平成31年4月。令和になっても、なるべく毎月更新します。

 私にとって平成は、夢のような、波乱万丈の年代だった。悪夢とは言わない。しかしながら、本来の私の人生なら、あり得ない状況が日常だった。特に元年から15年まで、私は失敗した事業家であり、東京を離れて、4分の1に下がってしまったワンルームマンションの支払いを抱えながら、名古屋で次々と3つの会社で働いた。まるで異なる、東京の人間にとっては、3つとも魔訶不思議な会社だったが、それを書いていると、3つの小説になってしまうから、本の話を始めよう。

 眠ることが一番大切な、まどろみの国、で、お姫様が眠れなくなってしまう。時々怖い夢を見るから、というのがその理由。なにしろ名前が、すやすや姫というくらいだから、王様、お妃様を始め、周りの人は心配と悲しみで眠れなくなってしまう。王様は国中にお触れを出して良い知恵を募るが、誰も名乗り出ない。そこで王様は、みずから怖い夢を取り除く方法を探しに旅に出る。
 ところが、どこに行って誰に尋ねても、怖い夢を消す薬は見つからなかった。疲れ果てた王様が雪の荒野を歩いていると、キラキラ光るものが目に入り、近づいてみると、手足も顔もある小人だった。その口の大きな小人に、王様は上着も長靴も杖も、取られてしまうのだが・・・。

 『モモ』で有名な(まさか、読んでない人はいないでしょうね。特に大人に面白いお話ですよ)『モモ』の出てくる灰色の大人たちは、すぐにその頃の日本人を連想させるが、どの作品も、設定されている背景が、すでにエンデの不思議な世界。そこで起こる様々な出来事が、心温まる結末で、読む人を幸せにしてくれる。

 この『ゆめくい小人』は、フックスフーバーの絵が、もう既にエンデの世界を描いているので、読む人は恐々と薄目の隅から、1ページ1ページを覗き読みさせられる。ちょっと恋人に、プレゼントしたくなる本。そろそろマンネリ化している中年のご夫婦にも有効。