『あやかし草紙』宮部みゆき作 角川文庫

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 しばらく子どもの本が続いたが、まさかその間、本を読んでなかったわけではない。スペイン料理の万里先生からモーニングティーのお誘いのついでに、たくさん本を頂いて、読みふけっていた。この本の他に池波正太郎が2冊と、楽しみに取ってある佐野洋子の分厚い読物が一冊。この宮部みゆきも池波正太郎の一冊も久しぶりの時代小説を楽しむことができた。

 神田にある袋物屋の三島屋で、変わった「百物語」が続いている。普通、百物語というと大勢の人が蝋燭をともして集まり、ひとつ物語をするたびに、蝋燭を一つずつ消してゆく。100人が語り終わると真っ暗になり、何かが起こる・・・、という遊び?だが、三島屋の百物語は、主人の姪のおちかの気晴らしに、と計画されたものだった。万一の用心に控えの間に人がいるが、聞き手はおちかひとり。聞いた話は誰にも言わず、闇に葬る、というう約束で、様々な人が、人生の重い話を聞いてもらって、心を軽くする、という設定である。この一冊には5つが入っている。

 第一話の「開けずの間」は、商家に住み着いてしまった「行き逢い神」の話。自分の恋のために、行き逢い神に願をかけてしまった娘のふとした行いから、身内に次々と不幸が訪れ、願いをかなえてもらうには、誰かの命を差し出さねばならず、家族の命がおどろおどろしく失われてゆく。次男が殺してしまった長男を、お上に店を潰されないために、気の病の娘の命を差し出して生き返らせてもらうが、一度死んだ長男は、ただ呼吸しているだけで死人のまま、という一場が生々しくて怖ろしい。
 控えの間で聞いていた奉公人の髪が白くなって、そのまま抜ける・・・。宮部みゆきらしいというか、3㎝もある分厚い文庫本を、一日半で読んでしまった。久しぶりに、読み応えのある娯楽本だった。