『あらしのよるに』木村裕一作 あべ弘士絵 講談社 と 『いないいないばあ あそび』木村裕一作 偕成社

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 映画でもTVでも紹介されているから、この作品を知っている人は多いと思うが、やはり原作には原作の良さがあって、読むからこそ頭の中で新しい世界が広がり、一冊の本から生まれた物語が、貴女だけの世界の、貴女だけの物語になる。殊にこの『あらしのよるに』は・・・・

 嵐の夜の洞穴の中で、狼とヤギが出会い、お互いの本性を知らぬままに話が合い、気が合ってしまう。微妙に主語がすれちがって、読み手をはらはらさせながら、翌日また会おうね、と約束しながら別れるところで、第一巻がおわる。このハラハラドキドキが7巻まで続く。

 狼とヤギを男女に見立てて、切ないラブストーリーだという人を始め、種族を超えた真の友情だと素直に感激する人もあり、読む人によってさまざまなのが面白い。

 この本を読んでしまうと、木村裕一という人はストーリー作家であり、「この本は子どもの絵本になっているけれど、本当は小説家なんじゃないの」といいたくなるが、おっとどっこい、木村裕一さんは、私の好きな絵本作家の一人で、しかも幼児向きの優れた絵本をたくさん出している。

 仕掛け絵本が多くて、幼児がおもちゃのように遊びながらことばを覚える。私が今手放せないのは
『いないいないばあ あそび』(偕成社)で、子どもの目の前で、犬や猫や怪獣やお母さんが、いないいないばあをしてくれる。あ、この本は、まだせせらぎ文庫には入れていない。

 木村裕一さんと初めて会ったのは、1986年IBBY東京大会で、ボランティア委員長の大役を仰せ付かったとき、「おもちゃ作家」として紹介されたように思う。手作りおもちゃの大家だというので、恐る恐る作品の展示をお願いし、「子どもに触らせないようにしますから」といったら「子どもに触らせなきゃ意味が無いでしょう。いいですよ、こわれたら直しますから」といわれて、いっぺんに好きになった。シャイで、ほとんど口を利いて下さらないが、ことば少なに話しているのに、なぜかとても心が温かくなる。