クリスマスのおばけ せなけいこ作 ポプラ社

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 久しぶりに下高井戸の本屋さんに行った。エキナカのあって、文庫本と子どもの本が充実しているので、割合と好きな店だったのだが、今日覗いてみると、様子が違う。
 
 なんと! 子どものコーナーが、びっしりとコミックの詰まった本置き場、のような有り様になっている。まるで、コミックは売れるから仕入れた本を全部詰め込んだ、という感じで、同じような白っぽい背表紙が虫のようにびっしりと張り付いているのが不気味だ。

 店の中央部分は文庫本が多く、親切なポップがついていて、外れの、つまり、面白くない本を選ばずに済むようになっている。今日も、文庫本のコーナーは変わらなくて、むしろ売れている本は、あちこちに散らばらせてあって、あっちでもこっちでも目につく。だからといって、押し売りしていない感じが良い。

 でも、文庫本も内容が少し変わったように思う。以前はまんべんなく、いろいろな傾向の本があったが、今は、日本の作家の、売れ筋の本が明らかに多い。スティーブン・キングとか、あのあたりの、つい読みたくなる翻訳物、ハヤカワ文庫などが極端に少なくなってしまった。アガザクリスティーの新しい版の文庫が並んでいたのは嬉しかったが、結局は、読んだかもしれない東野圭吾の1冊と、『タルトタタンの夢』という名探偵物を買ってしまった。

 ところが、子どものコーナーは右奥の隅に追いやられ、あんなに良い本がたくさんあったのに、何処にやってしまったのか、アンパンマンと、アナ雪しかない。クリスマスだからと、親があの本屋に行ったらどうしよう、と思ったら、棚の一番端っこに、せなけいこの、この本を見つけた。

 クリスマスは、ごく普通に、幼稚園でお遊戯会があり、クリスマスツリーが飾られ、ケーキを食べて、サンタさんからプレゼントも貰えるが、お化けには、ケーキもプレゼントもない。.........・真っ暗だし。だから、ケーキを分けてあげて、懐中電灯も貸してあげて、お母さんに頼んで、お化け用のセーターを編んでもらったら、お化けは喜ぶんじゃないかな、という優しい気持ちになれるお話。

 この頃のお化けは怖くないし、子どもは自分の心のなかにある優しさに気づいてないだけだから、ちょっと、プレゼントを貰えないお化けのお話をしてあげてはいかが、というような、作者からのメッセージも、巻末にある。

 こんな良い絵本が置いてあったから、まあ、売れ筋ばかりに変わってしまった本屋も許してあげるべきだろうか。

 「もう少し,子どものちゃんとした本を置いてくださいね」といったら、「店が狭いものですから」と、店員が口答えした。決して狭い本屋ではない。少し前までは、ちゃんとした本揃えだったし、ない本をすぐ見つけてくれる、良い店員さんも数人いた。「狭かったら漫画を減らせばいいでしょう。前はちゃんとしていたじゃないの」と声をとがらせてしまった。

 大人の本は売れ筋だけでも良い。子どもの本は、最低限、まともな本を置いてほしい。本当にセナさんの本があってよかった! このクリスマスのお化けだけだったけれども、まだ3冊くらい残っていた。これが売れてしまわないうちに、セナさんの他の本でも、福音館とか、こぐま社とか、鈴木出版の子どもの本を入れてほしい。お願いだから。