先月、千歳船橋にある、私の好きな不思議な本屋さんで、この本を見つけた。小田急線の「千歳船橋駅」から、京王バス乗場に向かう遊歩道の左側にあって、30年位前に仔犬だった「茶阿」をもらった「八兆」という立ち食いソバ屋のス2,3軒先にある。この道は30年以上前から、毎月何回か通っていたのに、たぶん昨年あたり、突然目につくようになった。入って見たら、素晴らしい本ぞろえなので、感激して、以後、通るたびに覗いて、数冊ずつ買ってくる。
「千歳船橋書店」とかいう、どうでも良い店名なのだが、岩波文庫とか福音館書店のように返本できないという噂の、しかし優れた本を沢山出版している出版社の本がたくさん置いてあって、高校を卒業して以来、なかなか出会えなかった、懐かしい本の背表紙を眺めることができる。他の書店では、たまに置いてあっても、さも売れ残りだという顔でいつまでも並んでいる岩波文庫が、行くたびに並びが変わっているのは、本当に売れているのか、店主がマメに入れ替えているのか・・・・。高校生時代に読みそびれた本を見つけると、懐かしくて、つい手を伸ばして買ってきて読んでしまう。
このあいだ「どうもボク、好きな本を選ぶ能力が衰えてきちゃったみたいなんですよ」と嘆いていた人がいて、「それは、軽井沢に本屋がないからよ」と答えたのだが、やはり本は本来、書店(BookOffではなく)で、買って読むもので、図書館と本屋は違うのだということに、軽井沢の人達は気づいてない。軽井沢という町は、「文化」はなんでも無料で手に入れられる町で、言い換えれば、無料で手に入る文化しかない、ということなのだが、町の人達はこれに気付いていない。
ミヒャエルエンデの『モモ』は、時間どろぼうの話だが、「文化泥棒」版の『モモ』を書いてみようかしら・・・。
誰かスポンサーになってくれたら、私の独断と偏見に満ちた本屋をやってみたい。本の評論はすべて無視して、古今東西の面白い本、読んで心に残る本を並べてみたい。夜になると本棚のスペースには飾棚のように淡い照明だけ当てて、本のにおいを肴に飲む、大人のバーに変身する。本当に本を読んでいる人たちだけのバー。あ、読んでなくても、本の好きな人なら入ってきてもいい。評論だけ読んで、タイトルと書評の話しかできない人はだめよ。
おや、またお勧めしたい本の話から離れてしまいました。その千歳船橋で見つけた本屋で先週買ったのが、『手塚治虫小説集成』なのですが、えっ、彼は小説も書いていたのね、と口にしたら「そんなことも知らなかったの!」と長男に馬鹿にされた。あっちこっちに書いていたんだよ、と、この本にも書いてあるが、そういうことらしい。
立東社という出版社は、不勉強だもので、知らなかったが㈱リットーミュージックという神保町にある会社で販売も手掛けているらしい。肝心の内容だが、手塚治虫が、あちこちにいろいろな形で書き残した18の作品を編んである。
始のいくつかは、漫画のシノプシスとして書かれたものかな・・・と思いながら読んでいて、頭に漫画の場面が流れてきたが、途中から、あきらかに短編小説として楽しく読んだ。星新一の世界と隣に並んでいる世界。『羽と星くず』など、やはり手塚治虫らしい世界で、彼のイラストも入っている。