『十二単衣をきた悪魔』内館牧子 幻冬舎

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 6日(日曜)11時10分頃からのFM軽井沢「魔法使いの本棚」で紹介した本だが、限られた時間の中では、なかなか思うことは全部話せない。いつも、本当はもう少し深いんだけど・・・と思いながら、適当なところで、えーとお.おススメです、なんぞと終わってしまう。まあ、作者が何日もかけて書いたものを数時間で読んでしまうのだから、10分くらいにまとめて話せるものなのかな???

 久しぶりに「せせらぎブログに書かなきゃ!」と思ったのは、勿論面白かったからだが、とびとびに読んでいた源氏物語が、久しぶりに、ひとつの物語につながったような気がしたから。

 私が初めて『源氏物語』を通しで読んだのは中学生のころ。もちろん?古文ではなくて、谷崎の現代語訳、いわゆる『谷崎源氏』が全11巻、揃っているのを見つけたからだ。今の人達には谷崎文学も古典に入るのかもしれないけれど、明治文学は、今の日本語をちゃんと話している人なら、自然に読めてしまう・・・はず。それなのにどうして、彼らは難しく感じるのだろう。また、話が横道にそれてしまいそう。

 主人公の「雷=ライ」は50社を受けて内定を貰えないダメ人間。外見も、性格も、実力も人並み以下、従って女の子にもてない、という設定であるらしい。ところが弟の「水=スイ」はハンサムで、よく出来て、性格も優しい。仲の良い兄弟だが、雷は常に弟にコンプレックスを抱いている。

 この雷が、派遣の仕事で製薬会社主催の『源氏物語』のイベント会場の設営に雇われ、帰りに来館者用のパンフレットと、源氏物語のあらすじ、登場人物に相応しい売薬、などのはいったビニール袋を貰う。家の灯が見えたころ、家では弟の水が京都大学に入ったお祝いをしていると聞き、家族が雷を気遣って、弟の志望大学さえ知らせずにいたと気付く。帰り道にいつの間にか枝道が現れ、雷はその道に踏み込み『源氏物語』の世界に入り込んでしまう。

 連れていかれたところが、自分が派遣で設営させられた弘徽殿にそっくり。そこで弘徽殿の女御と一宮に「陰陽師」として仕えることになり、ビニール袋の薬が役に立ち、周囲から認められる。大人しくて控えめな一宮に、腹違いの桐壺の局に光源氏という輝かしい弟がいるのを、わが身に引き比べて同情し、一宮母子の味方になる。20数年後に現実の世界に戻るが、浦島太郎と反対に、派遣仕事の帰り道に戻り、時間は少しもずれていない。しかし20年間を過ごした源氏の世界は身についていて、大学院に入って古典を極めようという結末が嬉しい。

 源氏を読んでいない人に『源氏物語』を読んでみたいと思わせるだろうが、そっちは、『あさきゆめみし』からでも、読んでもらえばいいし、源氏を斜め読みしかしていない大部分の人達に、ちょっと読み返して確かめたい、フーン、ほんとにそう書いてあったっけ?と思わせる本である。文庫本、定価770円也。