『うなるベートーヴェン』E.キション作 角川文庫

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 もともとこのブログは、「せせらぎ文庫」の本を紹介するブログなのだが、どうも、その時自分が面白く読んだ本について書いてしまっている。今日こそ、というか、今日は、ちゃんとせせらぎ文庫の書棚から選んできた本だ。

 せせらぎ文庫は8畳くらいの空間に、間口150㎝くらいの大きな本棚が10個、取り囲むように立っている。入口からみて右手がメインの本棚だが、入って正面にある低い本棚には、文庫本ばかりが並んでいる。左から2つ目の本棚の一番上の棚には様々なエッセーが置いてあるが、林望氏のが3冊、淀川長治氏の映画論、デーブ・スペクターのジョークブックの左側に4冊、音楽家の名前が、『モーツアルト』(小林秀雄)、『僕の音楽武者修行』(小澤征爾)『忘れられたバッハ』と並ぶが、その1冊目が、このベートーヴェンである。

 が、隣がデーブS.のジョークブックであるのでわかるように、この本は上質のジョークブック。エッセーではないのだけれど、ベートーヴェンの名前につられて、まじめな音楽青年がこの本を借りてくれないかな、と、そのあたりを狙った「並び」なのだ!ストーリーを結末まで話してしまうのはルール違反だとは思うが、この本にはジョークストーリーが2ダースも詰め込んであるのだから、一つくらいはいいかな?

 ある日の夜遅く、アパートの一室から、ラジオの大音響が聞こえてくる。住人達はカンカンになって「うるさい」「ヤメロ」「管理人はどうした!」と怒鳴りまくる。慌てた管理人は「がなり音楽はやめろ!」と窓からわめくのだが、するとドアが開いて、Drビルンバウムが顔を出し「誰だ!ベートーヴェンの交響曲をがなり音楽だといったのは!」と怒鳴る。一同シュンとして「聞こえにくいので、もう少し大きくしてください」等とゴマを擦って聞き惚れる。ところがしばらくしてアナウンサーの声が、「ただいまの曲は何々で、次にクラシック音楽、ベートーヴェンの交響曲イ短調・・・」と告げる、というお話。

 なんだか根を詰めるような本を2冊続けて読んだので、軽やかなジョークが気持ちを和らげてくれた。全く、読書というのは現実逃避ではあるが、常に、それなりの安らぎを確約してくれる。